Cocoonとは - インクルーシブな街から街へ 『お家でできる発達支援セラピー』

「Iwata YucariのCocoonへの想い」第三回
インクルーシブな街から街へ
『お家でできる発達支援セラピー』

Iwata Yucari
Mogi Atsuko

なぜインクルーシブ?

ーcocoonではお家保育とインクルーシブ保育を掲げていますが、「インクルージョン・マインド」というものを大切にしていますね。

 

茂木厚子:私たちは地域で共に育ち合うという意味で「インクルージョン・マインド」を大切にしています。「インクルージョン」とは、誰も排除されない社会、障害のある人もない人も、誰もが共に学び合い、共に生きる社会、誰もが安心してそこに居れる権利です。

子どもは地域で育ちます。たとえば、障がいのある子がその地域でより多くの人に知られていたら、何かあった時に助けられる機会も増えます。今は隣の人のことも知らないような世の中だけど、でも地域のみんながその地域で暮らす子どもたちのことを知っていて、集ったり繋がれる場所があったほうが、どんな子どもたちでも育ちやすいんじゃないかと思います。
そういう意味で、地域は子どもたちのホームになります。cocoonもホームだし、地域もホーム。地域には様々な人々がいて成り立っているひとつの社会で、それぞれの違いを理解して、多様性を尊重し合って、違ったものを認め合い、違ったものから学び合う。困った時には手を差し伸べる。そんな温かい繋がりの輪を子どもたちが体験していく『もう一つのお家』に、cocoonもこの地域も、なったらなと考えています。

 

岩田ゆかり:なんでこのインクルーシブという観点にたどり着き、今もモンテッソーリメソッドを勉強しているのか。わたしは幼少期をサンフランシスコのモンテッソーリ幼稚園で過ごし、その頃のインクルーシブな環境で育った時の記憶が潜在意識下に残っているようで、とても不思議なんですが、子どもを産んで子育てをすればするほど感覚として思い出す事があるんです。あの頃の環境はとても心地が良かったし、それが今に繋がっているということを体感しました。
マリア・モンテッソーリも、医師として初期のころは障がいのある子どもたちを診ていて、そこで経験したことや観察したことがモンテッソーリ教育に大きく影響しています。
インクルーシブという考え方は、子育てを経験し、そしてcocoonのお家保育の中で自然と、いえ当然ながらたどり着いた感じですね。保育をしながら子ども達を観察していると、それぞれの子ども達がみんな多様でバラバラだということに気づきます。そうするとやっぱり集団として見るのではなく、個の子育てにたどり着く。それが膨らんで、インクルーシブ保育になり、それは子ども達が導いてくれたカタチでもあるのです。

 

ー茂木さんが親向けにやっている発達支援の勉強会『 Peer Sense ~ 子どもを知る学習会 ~ 』も、そういう考えに基づいてやっている。

 

茂木:日本の発達支援の現場は、発達に凸凹がある子たちだけをどこかの場所に集めて療育が行われていることが多いです。子どもだけが療育を受けていて、親は我が子が何をしているのか見られていないことがほとんどでしょう。そこで行われている多くの療育は、発達に凸凹がある子どもを「ふつう」に近づける方向で、練習、訓練、指導が行われている印象があります。
毎日のように療育に通わせているご家庭もあるけれど、親の理解や知識が伴っていないのは効率も良いとは言えず、もったいないです。実は親御さんがお家でできることは、たくさんあるのです。

Cocoonでは、それぞれの子どもたちの「個の発達」を尊重するため、私が学んだ米国・カリフォルニアの発達支援現場で行われている『ホーム・ベース・セラピー』の考え方を取り入れています。
親が子どもの発達に課題を感じた時、アメリカでは発達専門セラピストが家庭を訪問して、子どもへの関わり方、環境設定、発達段階に合わせたアプローチ方法などを親に教え「家族まるごと支援」のシステムが重要とされています。それは、子どもが毎日を過ごすお家の環境と、その子どもと長い時間を過ごして支える親へのサポートが最も重要だと考えるからです。
私たちが行っているのは、それぞれの子が今、何を必要としているのかを見極めて、その子に合わせたオーダメイドのアプローチ方法を都度考えることです。周りが、その子の困難さや凸凹を理解し、とにかく安心できる環境を整えてあげる。そうすれば、子どもたちみんな、いえ、大人たちも、お年寄りも、ひとり親家庭も、様々な課題を抱える人が生きやすくなるでしょう。そういった意味で、cocoonのような地域に根付いた居場所がぜったいに必要なのです。

知識の大切さ

ー発達支援の講座で、茂木さんが「学んだら、お家でお母さんお父さんにもできることだから、無理して毎日のうように療育に通わなくても大丈夫だよ」って言っていたのが印象的でした。

 

茂木:親向けの勉強会『Peer Sense』は、”お家でできる発達支援セラピー”というサブタイトルがついています。これは当たり前のことをあえて言っているんですが、お家に帰っても発達支援は現在進行形で続いているということです。だから親が学んで知識を持てたら、日々の生活の中でその子どもの発達のサポートが効率よく促せるよ、っていうことなんです。

 

岩田:子育ての不満や不安、親たちが直面しなくちゃいけない課題というのは必ず誰にでもあって、時にはどんなに向き合ってもそれは解消されなかったりするけど、(茂木)厚子さんの講座で、自分で学んで知識を得ることで、意識も変わってくる。

 

茂木:そう。知識を得ることで意識が変わる。私も子どもの感覚統合が凸凹だったので、この発達支援の知識が子育てに役立ちました。もっと知りたいと思い、更に勉強をしたけれど、理論と現実はやっぱり違っていて、子どもを産み育て、実際に身を持って体験し接したことで、知識の理解の深さが全然違ってきましたね。

 

岩田:子どもの発達の凸凹の話をしているけど、もちろん大人にもいろいろな得意不得意がありますよね。子どもの観察が得意な人もいれば苦手な人もいる。苦手な人は学んでもらったり、私たちに預けてもらって、外で得意なこと好きなことをして活躍できたらいいなと思うし、そんな循環であってほしいです。いろいろな専門家の人たちそれぞれが、世界が良くなるよう努めていて、私たちもそんな役割の一つとして子どもたちと関わっています。

センス・オブ・ワンダーと自然

ーインクルーシブ保育の説明で、”センス・オブ・ワンダー”という言葉を使っていますね。

 

岩田:”インクルージョン” や “ダイバーシティ”という言葉はもちろん大事なんですが、わたしが一番しっくりきているのがセンス – 感覚、という言葉です。遊びのセンスだったり、生きるセンスだったり、学びのセンスだったり、人間関係のセンスだったりいろんなセンス – 感覚がありますが、五感(センス)をつかって遊んで、感覚を磨くということが、子どもにも大人にも大切だなと。2020年から取り組んでいるインクルーシブ保育(民間の発達支援事業)のメニューに、新たに「wonder コース」を設けました。これはここでのセンス – 感覚を最も大切にしたマンツーマン保育で、cocoonらしいアクティブラーニング型の発達支援サポートです。おそらくこの取り組みは都内では貴重、かつオリジナリティ溢れた保育スタイルで、cocoonからの強いメッセージでもあります。

 

茂木:私もすべてはセンス – 感覚だなと思っています。ホーム・ベース・セラピーの中に、感覚統合療法というのがあるのですがこの分野に触れ、センス – 感覚のことを深く学びました。やっぱりセンス – 感覚がないと子どものことを充分に見れないです。学問的な知識がなくてもセンス – 感覚がある人は、子どもの本質を実によく見て聞いて、感じ取れているのです。

私は保育園でも指導をしていますが、保育士にも子どもの気持ちや行動の意味・本質を感じ取れない人がいます。それは充分に遊んでいないからではないかなと思います。なので、遊んでいる子どもの感覚や感情がよくわからないんだと思います。

 

ーセンス – 感覚は学び直せるものですか?

 

茂木:入り口になると思います。まずは知ることが大事です。子どもの発達について大人も体験を通して十分な知識を得る。それが子どもの健全な発達を促すことにもつながるのですから。

 

岩田:わたしはけっこう感覚的にやってきて、厚子さんから知識を学んで、自分がやってきたことの裏付けになった事。そして自信にもつながりました。

 

茂木:(岩田)ゆかりちゃんは感覚で子どもをしっかり観察できているからだと思いますよ。子どもをよくてみると、色々なことに気づかされるし、それが知識で補完されると理解が更に深まりますよね。

 

岩田:目の前の6歳の子どもは、いきなり6歳で生まれるわけじゃなく、6年間しっかり生きている。そして今日、まつげが生えた。今日、友だちとケンカした。そういう毎日の新しい成長があって、いくらでも観察のチャンスはある。それを近くで観れるのは喜びだし、、幸せです。cocoonで子どもたちを見ていて、自分の子どもじゃなくてもこんなに可愛いんだ!ってびっくりします。ほんとにかわいい(笑)。

 

茂木:「地域のみんなで育てる」っていうのがいいですよね。自分の子どもであっても、たまたま自分のところに生まれてきただけで、「子どもはみんな社会の子」という感覚はとても大事だと思うのです。

「子どもはの所有物」だって思ってしまっている大人も少々多い気がしています。

子どもを自然にしておくこと

ー外で遊ぶことができるのも「地域」というホームがあってこそですね。

 

茂木:外で遊ぶことで、子どもは感覚 – センスがたくさん刺激され磨かれていくんですよね。

 

岩田:赤ちゃんが生まれたら、陽が出たら目を覚まして、おっぱいをあげる。寄り添って自然体でいるとお外に行きたくなります。鳥のなき声をいっしょに聞きたい、緑や葉っぱをいっしょに見たい、川の水をいっしょに触りたい、「いっしょ」にやりたい事がお外にはたくさんあって、保育しててもラクだし、それもまた自然なこと。なんかね、子ども達と過ごす時間はゆっくりと流れているような気がしていて、そんな時間の感覚が特にわたしは好きです。

 

茂木:”センス・オブ・ワンダー”というのは、自然と子どもは切っても切り離せないということ。子どもをあるがまま、自然の状態にしておく。好きなようにさせておくと、感覚 – センスも自然に育っていく。動物だって自由に活動し、生きる力を育んでいますよね。でも人間は、大人の都合でミルクの時間や食べる量、昼寝の時間まで全部決められてしまったりしています。

私たちは、子どもの今を思う存分に「子どもらしく」いさせてあげたいだけなのです。それをしていたら子育てはきっとうまくいくと思っています。遊びたいならとことん遊ばせてあげる。子どもは何かを舐めたいし、触っていたいし、泥んこになりたいし、水を浴びたい。それぞれの「やりたい」が満たされたら、まだ0−1歳くらいで、「楽しかった」って言語で伝えられない子どもでも、cocoonが終わってお迎えに来た親御さんには、その子の満足感に満ちた表情から「楽しかったんだな〜」が伝わるんです。

 

岩田:満たされたお顔しているからね。私たち、愛をかけてますから(笑)。この前幼稚園クラスに体験の子が来て遊んで行ったんですが、家に帰ってから、「楽しかった!保育園ではやっちゃいけないっていうことばっかりしてた(笑)」ってお母さんに言ったんだって。子どもたちは、家や保育園、よそでやっちゃいけないことと、cocoonならやっていいことをよーくわかっているんですね。

文明が発達していろいろなことが便利になって時間にも余裕ができたことはとってもいいことなんだけど、昔はもっと自然に外に出ていましたよね。洗濯物を庭先で干したり、野菜をつくったり買い物しに隣町まで出かけたり、近所の誰かに会ったり。わざわざ「外遊び」と言わなくても、暮らしに密着した外の世界、地域とのつながりがあったんだと思います。




やさしさと自由

岩田:子どもたちを見ていると、自分の子どもだけじゃなく、ほかの子たちもみんながみんな繋がっていて、全体で楽しく、幸せにならなくちゃと思います。大げさになるけど世界の平和、いい世界を子どもたちに残したいですしね。

 

ーモンテッソーリさんのお墓には、「何でもできる親愛なる子どもたちが、私といっしょに、人類と世界の平和を築くことを願う」と書いてあるそうですね。

 

岩田:子どもたちと一緒にいると、もっと社会にやさしさがあればなって思うの。隣の人が転んで泣いていても無視する社会なんて悲しい。

 

(ここで近くで遊んでいた小2のさすけが横からひとこと)

 

さすけ:やさしさは自由からうまれる。自由はやさしさになる。

 

茂木:お、たしかに自由がないと「やさしさ」って生まれないよね。こういうことは子どもに聞いたほうがいいね(笑)。こういうふうに、親以外の大人と接する機会がいろいろあるのが、地域で育つということなんですよね。

 

岩田:おもしろい大人とたくさん会って、子どもも大人も混ざれるのは、cocoonのいいところ。

 

さすけ:混ざるのは楽しいのもあるし、悲しみもある。勝手に混ぜられるのは悲しい。そうしたら逃げろーって逃げる。

 

茂木:そうか。さすけはそこで「ヤダ」って言えて、逃げられるんだね。それも今の子はうまくできない子のほうが多いです。大人でもそうだけど、おかしいぞ、危険だな、侵害だなって感じたら、身を守るためにその場から逃げるのも大事なスキル。自分を守れる人は、となりの人も守ることができるし、人が困っていたら手を差し伸べることもできる。

私は南米の地を旅していた頃、たくさんの「やさしさ」を学んだ気がします。私は外国人旅行者として南米の小さな街を訪れたのだけど、現地で暮らす彼らはものすごく貧乏なのに、にある一番いいもの、美味しいものを私に食べさせてくれ、もてなしてくれたんです経済的に貧しくても、温かく豊かなマインドがそこにはありました

 

元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカさんは「貧乏な人とは、少ししかモノを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と私たちに教えてくれましたね。

それは現代の日本社会でも同じことが言えるのではないかと思っています。こんなに日々一生懸命、今を生きている愛らしい子どもたちにさえ満足せず、まだまだ足りない、もっとこうなって欲しい、できないことを「もっともっと」って期待して、無限の欲を望んではいないかなと思うのです。

 

自然の中で、地域で、ホームで、現代を生きる子どもたちがたっぷり自分のために遊べること。それで十分豊かなのだと思います。

 

(なにかまとめを一言)

どんな子どもでも、子ども時代に思う存分満たされて安心の中で「子ども時代」を生きたいのです。

今後、人権が守られる温かい地域社会を築き上げることができるのは、他の誰でもない、私たち大人です。ひとりひとりの優しさが、温かいインクルーシブ社会の輪を生むのです。




(インタビュー・構成:淵上周平