Cocoonとは - 善福寺の家から、武蔵小杉の家へ

「Iwata YucariのCocoonへの想い」第四回

善福寺の家から、武蔵小杉の家へ

Iwata Yucari
Mogi Atsuko

こどもが生まれながらに持っている力を自然に伸ばしてあげること

以前のインタビューでもお二人で話してくださいましたが、Cocoonではインクルーシブ保育をずっと行っています。 来年度オープン予定の『Cocoon parents square 武蔵小杉の家(仮称)』では、親支援【お家でできる発達支援セラピー Home-Based-Therapy 】の講座をより積極的に広げていきたいとのことですが、あらためていまどんなことを考えているのか、教えてください。

岩田:ここ善福寺の家では、施設内でも外遊び(テラスや善福寺公園)でも、地域との関わりや多世代交流の中でいろいろなコトが起こります。こどもたちは、変化に富んだ機会や環境に反応しながら、それぞれがもっている感覚や興味を自由に伸ばしていきます。

Cocoonが掲げている『自由』と『ひらめき』を大切にした少人数制の保育を展開していると、ちょっと発達の遅れが気になる子、*とびきり個性的でユニークな反応をするこども達が、なんと言う現象なんでしょうか(笑)、共鳴しているとでも言うのかしら、自然と集まってきます。そんなこどもたちと長い時間いっしょに遊んでいると、それぞれの多様な個性が見えてくると同時に、この「こどもが生まれながらに持っている力」こそ守りたい! と強く思うようになりました。

たとえばみんなで絵本を読んでいる時にとても集中して聞いてる子もいれば、感覚が敏感で友だちとの関わりには入れないけれども、好きな英単語が耳に入ったとたんにぱーっと一気に話し始める子がいたりと。どこからか得た情報ではなく、わたしの目の前で起きていることです。とても多いですよ、感覚が過敏だったり人より共感能力が高くて繊細だったり、集団行動が苦手だったり得意だったり。こどもの数だけ特性はさまざまで、成長と共に変わりますし、なんと言っても発達の途中段階であるということ。

茂木:数字に特異な関心と能力を持っているこども、虫や草花にとても詳しいこども、一度目にしたものは決して忘れないこども、それぞれ多様な能力を持っているこどもたちがいるんですよね。そのこども独自のカラーというか個性は、様々な場面、空間、時間、体験の中で、よりはっきりと現れてくることを実感しています。
わたしたちは、そんなこどもたちのユニークな才能を見出すため、思い切り自由に! バラエティ豊かな体験を通して彼らの興味関心の瞬間にできる限り密着します。こども目線で、こどもの世界をいっしょに過ごすことでしか気づけないことがたくさんあるからです。1日のカリキュラムがみっちりと組まれている一斉型保育では、集団から外れることに注目が行きがちですから、みんなと違うことの素晴らしさや、そのこどもの持っている特殊な能力が見失われることもあるのではないかと感じています。


親御さんたちはそういう特性のあるこどもたちのことをどう感じているんでしょうか?

茂木:親御さんの中には、我が子が集団生活の中でみんなと同じでないこと・ユニークであることをしばしば「困りごと」として捉えている方、「違い」をなかなかポジティブには捉えられない方が多くいらっしゃいます。周囲からも、集団の中でひとりだけみんなの輪から外れていることを問題視されたり、人と違うことをネガティブなこととして指摘されたり……そのような環境の中で不安に陥ってしまう親御さんは少なくありません。

岩田:保育や教育の現場は、時代の変化に追いつけていないんだと思います。現場の声は置き去りになり、歪んだ情報ばかりが先走り、初めての子育てに不安を抱えている親御さん達を助長させてしまっている傾向があると思います。わたしたちに出来ることは、「○○くんすごかったですよ!」とポジティブに強く伝えること。そうすることで、お父さんやお母さんの気持ちが変わるからです。こどもたちの一番近くにいて、一番長い時間を共に過ごす親御さんに気づきがあることでマインドセットが変わり、こどもは大きく変わります。

Cocoonが取り組んでいる親支援【お家でできる発達支援セラピー Home-Based-Therapy 】の『こどもを知る学習会』は、生命の進化論をベースにこどもの発達の理論を学び、実践の場をCocoonの保育を通して学びます。武蔵小杉の家では、利用者向けの年間プログラムとして、この親支援を展開していきたいなあと考えています。こどもの発達の土台を学び、理解することで、こどもに関わる周りの大人の受け入れかたも変わると言うこと。知識を得ることで強さと優しさが生まれ、それは波紋のように伝わっていきます。そしておとなのマインドセットが変わることで、鏡のようにこどもの姿も変わっていきます。Cocoonの保育理念の『自由であること』とは、知識のスキルセットであり、マインドセットとスキルセットのどちらも大切です。

茂木:こどもの発達についてより深く学んでいくと、発達には順番や法則があって、こどもは大人や社会の思い通りには発達しないのだ、ということがよく理解できます。わたしたちは皆、先がわからないと不安になります。周りを気にして、過度な情報収拾をし、周りと比較し、また更なる不安に陥るという悪循環になりがちなのですが、「こどもとはそういうものなんだ。ではどうすればいいのか?」を知るだけで、むやみに悩んだり怒ったりしなくて済むわけです。
そう言った意味では、わたしがカリフォルニアの早期発達支援現場で学んできた「早期介入・親支援の重要性」を軸とした数々の発達支援プログラムは、非常に有効なアプローチ方法だと言えます。親が知識を持つことで、ブレない子育ての芯ができ自信に繋れば、結果的にこどもの状態も良くなり、必然的に子育てライフがより豊かなものになるのです。 【Home-Based-Therapy】とは単一のセラピー方法を指すものではなく、発達支援が充実している国々で行われている包括的家族支援の考え方と複数の発達支援セラピー理論をベースとした、Kids Sense独自のメソッドを指します。

岩田:生まれた時に誰もが持っているその子の個性や特質。それを修正したりなおしたりするのではなく、持っているものを見つけ自然に伸ばしてあげること。それこそが力を発揮できる将来の道標になるのではないかなと思います。 親はこどもの一番近くにいるのでその子の特質を(本来は)見つけやすいものですが、専門的な視点をもつスタッフが親の代わりとなって一緒に過ごすことで、個性だけにとどまらない才能を見つけ伸ばしてあげられる、そんな存在でありたいと思います。Cocoonのお家保育が「預かる」×「子育て」をミッションとして掲げているのもその一つです。

「お互いさま」を広げていく

ー武蔵小杉の家でチャレンジしたいことはありますか?

岩田:みんな『お互いさまである』という感覚を共有して広げていきたいです。こどもを預かる仕事につき、「子どものために」と思い没頭してきた時間や価値観は、実は「社会のため」であること。うすうす、そうなのかなとは思っていたんですが、わたしは地域の中で、社会の中でパズルのようにこどもを育てるパートを担当しているだけなんだと思います。

茂木:こどもたちのホームは家庭だけではなく、ここ善福寺の家Cocoonもホーム。この先、生きていく地域もまた、こどもたちにとっては大きなホームです。親御さんのご相談の多くは、我が子の将来の心配事です。地域でどれだけのサポートがあるのか、明確なものがないと当然誰でも不安になります。
だからこそ、どんなハンディを持っている人でもこの地域の一員として安心して生きていける地域社会を築きあげていきたい。大人も子どもも、不自由を感じたり困ったりした時には、気軽に助けを求められるような地域にしたいと心から思います。そのためにはまず行動ですね。

わたしが長年暮らしたカリフォルニア州・バークレーでは、街全体がバリアフリー、ユニバーサルデザインになっているような地域で、車椅子の方や障害のある方がひとりで街に出ていったとしても、支援が必要な時はヘルパーさんに頼らずとも、そこに居合わせた地域住民が手を差し伸べるのが常識でした。「困っている人を助けるのは専門家である必要はない」、という意識を一般市民がもっているからでしょう。バークレーのようなインクルーシブ社会の実現を目指すには、やはり幼いころから様々な特性のあるこどもたちが、地域で「いっしょに」過ごすことが、何よりも重要なことなのだと思います。それなくして、どうやってそのこどもの日常の「困った」に気づき、どんな手助けが必要なのかが理解できるでしょうか?

岩田:モンテッソーリ教育の理念の中心も同じなんです。障害があったり、お年寄りやこどももそうで、”ふつう”よりもどこか弱いところがある人にとってのいい社会になれば、それは誰にとってもいい社会でしょう、という優しさに包まれた持続可能な捉え方。こどもの時から、地域でいろいろな人と混じって過ごした経験や価値観は、インクルーシブな社会を創ると思います。

武蔵小杉の家では、その誰にとっても優しい環境づくりの土台となる施設(かめ設計室さんが担当)と園庭(”大地の再生”が担当)にかなりの想いを込めています!
保育と聞くと、多くの人が保育士の質やポテンシャル、言うならば保育理念だけを重視しがちですが、保育現場である、こどもが過ごす環境こそが最も重要なんじゃないかなと思います。ここで言う環境とは、「こどもの多様性を受け居れる多様な空間」。それは保育施設の設計からすでに始まっていて、さらに想像を巡らせ、こどもがどう一日を過ごすのか。「外遊びに特化した託児所」として長年外遊びを実践してきた経験値から、園庭の土壌づくりから始めています。きっと5年後10年後にその答え合わせが出来ると信じて……。

茂木:わたしたちが「インクルーシブ」にこだわる理由は、人が人に関心を持ち、違いを認め合い、人々が温かい地域で共に育ち合えること、それが心の豊かさやウェルビーイングにも繋がると考えるからです。(well-beingとは:心身ともに、そして社会的にも幸せで健康であること、良く在ること、幸福感、自己肯定感、自尊感情が豊かであること)それが生きるための基盤になります。土台がしっかりとしていれば、どんな境遇の中でも「自分は大丈夫だ」という自律心を支えます。ではその土台をどうつくるのか。
インクルーシブ教育が進んでいる国々の考え方は【Child is Center】つまり、常に「こどもが中心」です。例えば、支援の必要なこどもとその家族を中心に考え、その周りに保育園や学校、担当医、セラピスト、ソーシャルケースワーカー、カウンセラーなど全ての関係機関の支援者が繋がり合って、包括的な家族丸ごと支援として、様々な角度から親子へのサポートをするんです。このような地域連携型支援は課題を抱える当事者に安心感を与え、効率的に改善に導くことができるんです。そんな取り組みも「武蔵小杉の家」で実現できたらいいなと思っています。課題のあるこどもを変えるのではなく、変わるのは周りの人々のサポートや当事者が安心できる環境をつくっていくことなのです。

岩田:最近「シャドウ・ワーク」という言葉を知りました。主婦の家事しごとのような、基本的に報酬が発生しないような労働のこと。でもそれは、誰か(多くは夫)が報酬をもらって働くために必要な生活基盤を維持するために不可欠な労働です。子育ても”シャドウ”だと思われているかもしれませんが、ほんとうは”シャドウ”(かげ)じゃあない、すごくポジティブでクリエイティブな仕事だということを伝えたいです。
「子育ては楽しいもの」であることは間違いないんですが、その先も考えていきたい。今後の日本社会を良くするために、遠い道のりのようで一番の近道が、子どもへの投資だということ。この国が豊かになるには『教育』を根本から見直すしかないと思います!
そのためには、こどもに関わる我々おとなの行動から変えていくこと。行動だけでなくマインドセット、をシフトすることが必要なんじゃないでしょうか。未来の宝ものであるこどもを育てること。親の代わりとなってその大切な命を預かるのがこの保育という仕事です。寄り添って、見守って、時には背中を押してあげたり、いっしょに遊んだりすることは、社会にとってとても大きな役割を担っています。
もし発達に不安のあるお子さんを育てていて悩んでいたり困っている方がいらしたら、既存の枠にはまらないオリジナルのCocoon 保育でサポートいたします。そんなことを武蔵小杉の家でも展開していきたいなと考えています。


(補足) 文科省でも、R3年から「特定分野に特異な才能のある児童生徒」の指導や支援について議論が行われています。
 *特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 学校でのこうした支援へつながる、地域での保育による支援として、私たちの活動も位置づけることができるかもしれません。

(インタビュー・構成:淵上周平