医療的ケア児支援とインクルーシブ保育

みなさん こんにちは。

Cocoon インクルーシブ保育・発達支援アドバイザーの茂木厚子です。

先日、杉並区が主催する「医療的ケア児の支援法とインクルーシブ保育」に関する研修に参加せていただきました。

 

今回は、私たちも尊敬する香川大学教授、松井剛太先生のご講義を拝聴させていただき学び多き日となりました。

 医療の進歩に伴い、医療的ケア児の数は年々増加しています。また、児童福祉法の改正により医療的ケア児を受け入れる保育所の数、実際の受け入れ人数も年々増加傾向にあります。令和2年〜令和3年の1年間の調査では約100以上の受け入れ保育所、受け入れ人数が増えたとの報告が上がっています。

 そこで課題となってくるのが、インクルーシブな保育(インクルージョンそのもの)の考え方、捉え方です。カナダでよく使われている「インクルージョンの考えかたの図」について、松田先生もご紹介されていました。

左の図は、Exclusion = 障害・課題を持つ人たちが、みんなと同じ場所ではなく外にいる「排除」の状態です。

左から2番目の図は、Segregation = 同じ種類の人たちだけを分類して分ける 「分離」を意味します。

3番目は、Integration = 多数派集団の中に少数派の集団が入る「統合」ですが、場所は統合されていても共に学びあいを共有して過ごせているわけではありません。

1番右の図は、Inclusion = ここでいよいよインクルージョン「包摂」、同じ場所で混ざり合い共に過ごしている状態です。

 しかしながら、「一緒にいるだけでは本当のインクルージョンではないのですよ」という考え方がこの続きにあるのです。

 実は、日本ではまだまだ真のインクルージョンの考え方が広がっていないのが現状です。それは特別支援学校、特別支援級、特別支援教室などが次々と作られている現状にあります。それはこの図で説明すると「分離教育」です。また、学校の中に特別な教室を儲けることは敷地の「統合」であって、真の「共生教育」ではないということです。このインクルーシブ社会から遠ざかっている現状を「国連子どもの権利委員会」は長年にわたり日本政府に勧告を出してきました。そこでやっと重い腰をあげて、こども家庭庁が発足され「こどもまんなか社会」が掲げられたのですが、未だ、分離教育や統合教育の状態が続いています。

 さて、4つ目のインクルージョンの図で完結するのではなく、私たちは更にその先を、深く考えていくことの重要性を知りました。

 5番面の図は、みんな一緒に同じ場所で過ごすことはもちろんのこと、みんな一緒に体験を共にする、感情を共にする、そして一番重要なことは、「未来を共有する」ことなのだそうです。表面的な違いや障害だけでなく、ひとりひとりの内面的なものに目を向けること、考えること、共有すること、みんながいる未来を描くことで、今どんなサポートをすればいいのかを考え続けること。

 障害ある子どもだけでなく、どの子どももみんなそれぞれ内面的な多様性を持っていることも忘れてはいけません!という視点にきりかえること。そして、子どもの内面は環境要因によって様々に変化することも常に頭に入れておくことも重要です。

 例えば、同じような出来事が起きたとしても、お家にいる時に起きたのか?幼稚園にいる時に起きたのか?または対応する先生によっても、状況やシチュエーション、場所、音、気圧、温度などによっても、感覚の捉え方や不安・緊張・困り感などの情緒的な安定度合いも違ったりします。

 障害の特性など外面的な部分だけでなく、子どもの内側の多様性を理解することに注意を向けて個別に寄り添いサポートしていくことで、はじめて安心安全なインクルーシブ社会が実現するのです。そういった意味では「未来を共有する」とは、支援の必要な子どもひとりひとりが、みんなと一緒にいる未来を想像して考えてみることによって、自然とどんな理解やサポートが必要であるかが明確になってくるのだと思います。

 そしてそれを学ぶのは周りの子どもたちです。特別支援というと、なぜか障害のある人が「多数派集団」に少しでも近づけるように訓練したり学んだり、、、という印象がありますが、決してそうではありません。学ぶのはむしろ社会、多数派集団の方なのです。

インクルージョンの考え方をもう一度。

 ①「同じ場で生活」できるようにする。 ② 「体験」を共有する。 

 ③感情を共有する。  ④ 「未来」を共有する。

 みんなと同じことができるようになることが重要なのではありません。みんなが一緒にいる「未来」を描くこと。その未来のイメージを広げるためにも、とにもかくにも「一緒にいること」が大事なのです。一緒にいなければ見えてこないものはたくさんあります。

 そして人はいつ、特別支援の対象になるかわかりません。今はなんでもできる私たちでも、事故や病気により日々の生活もままならず、不自由さを助けてくれる周りの手が必要になる時が来るかもしれません。そんな時、この5番目の図にあるように、地域社会のみんなが一緒に過ごし、助け合い、それぞれの多様性を理解し合い、共生する温かい社会になっていることを誰もが望むのではないでしょうか?

 そしてもう一つ、印象に残ったことは「みんなちがってみんないい」「多様性」「ダイバーシティ」というワードが頻繁につかわれるようになったことで、逆に課題となっている現場についてのお話です。

 これらの「多様性を象徴することば」が使われるようになった一方で、それにより「分断」を促しかねない、という視点について松田先生も触れられていました。確かに「多様性・多様性」と言いながら、「あの子はみんなとやり方も好みも行動も違う。だからみんなと違っても仕方がない。干渉せず、無理させず、好きにさせておこう。うちに合わないから他に行くのはどうでしょう。」などと片付けられる現状も確かにあります。この考え方は、思考の停止や理解の単一化にも繋がりかねないということです。ここはやはり、地域の皆さんや子どもに関わる先生方に、より深く知って考えてほしい大事なところだな、と痛感しました。

 この子がみんなと一緒にいる未来はどんなものだろう?どうしたら安心できる環境にできるかな?どんな方法がこの子にとって一番幸せなんだろう?その時、どんな学び合い・支え愛があるかな?内側の多様性を理解して、ひとりひとりがこの地域の一員なのだという安心感はどうしたら感じられるのかな?などと考えてみることからなのです。

 よく保育園、幼稚園、学校などで「うちは専門家がいないから、障害児を受け入れたことがないから」と受け入れや関わりを諦める場面がありますが、、、障害を持つお子さんをもった保護者の皆さんもまた初心者で0から必死で学ばれているのです。そう考えた時、専門家でなくても充分に知識を得ること、理解すること、寄り添うこと、学び続けることは可能なのです。もちろん日本の配置基準では厳しいことも重々承知ではありますが、インクルーシブマインドのあり方を習得するにはまず実際に体験することからなのです。体験することで、その子どもの理解だけでなく、その子どもを日々支えている保護者の身体的・精神的ストレス・不安や悩み、経済的負担など、様々な角度から理解することができれば、同時により良い保護者支援にも繋がります。

 まずは知ること動くこと。海外のように「包括的な家族丸ごと支援」の重要性を広げ、ここに国を挙げて予算をつけるよう発信・行動していくこともまた未来のこどもたちのウェルビーイングにつながっていきます。

 今回の研修では「保育所等における医療的ケア児の支援に関するガイドライン」「保育所等における医療的ケア児の受け入れ方策に関する調査研究」をもとに各地域での事例もあげられていましたが、やはりまずは「インクルーシブマインド」=基本的な考え方を周知させることが重要なのだと感じました。人口が少ない地域では、障害児・医療的ケア児、ひとりひとりの丁寧な個別支援会議が設けられているそうです。ということはやはり人員の数増加により、インクルーシブ保育・教育のための個別対応が可能にもなる、ということです。皆さん、ぜひ一緒に声をあげましょう。当事者だけの力では到底足りません。周りの皆さんの勇気ある発信・行動が、子どもたちの未来を守ります。

 長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 「どの子もみんなで一緒にいる未来を描いてワクワクする」そんな日々を過ごしています。

~ Inclusion Mind ~Written by Atsuko Mogi / Kids Sense